診療時間は立地や競合クリニックを見ながら「なんとなく」決めてしまいがちです。しかし、初診料・再診料に関わる加算は、標榜時間の内か外か、届出の有無によって算定できる・できないが分かれます。同じ患者数を診ていても、「診療時間の組み方次第で算定できる点数に差が出る」のです。
開業準備の段階でこの制度を押さえておくと、後から「届出をしていれば算定できていた」という取りこぼしを防ぐことができます。特に、時間外関連の加算は制度が複数に分かれていて名称も似ているため、開業医の間でも認識にばらつきが出やすい分野です。ここでは、開業医が診療時間を決める際に見落としやすいポイントを、よくある算定忘れの例とあわせて整理します。
①時間外の加算には3種類あり、条件を満たさないと算定できない
時間外等加算(時間外加算・休日加算・深夜加算)
標榜する診療時間の外で診療した場合の加算。3種類は併用不可で、最も点数の高いものを適用します(例:時間外加算は初診85点・再診65点、深夜加算は初診480点・再診420点)。受付時刻が標榜時間内だった場合や、患者側の要望ではなく医療機関側の都合による時間外診療の場合は算定できません。
夜間・早朝等加算
逆に、標榜している診療時間内の特定時間帯(平日6〜8時・18〜22時、土曜6〜8時・正午〜22時、日曜祝日は終日など)に診療した場合の加算です。初診・再診とも一律50点で、週30時間以上の診療時間があれば届出不要で算定できます。
時間外対応体制加算
標榜時間外の電話問い合わせに対応できる体制を評価する加算です。実際の対応実績ではなく体制の整備自体が評価対象で、2026年度改定で名称変更・増点されました(加算1は5点→7点など)。
②届出不要の加算に気づかず、診療時間だけ狭く設定してしまう
夜間・早朝等加算(50点)は、週30時間以上の診療時間があれば届出なしで算定できます。平日夜間帯(18〜22時)を標榜診療時間に含めるかどうかだけで、この加算の対象になるかどうかが変わります。「夜は疲れるから」と診療時間を狭めた結果、届出不要で算定できたはずの点数を取りこぼしている、というケースは起こり得ます。
③時間外対応体制加算の届出を後回しにしてしまう
時間外対応体制加算は実際の対応実績ではなく、体制の整備そのものが評価対象です。院内掲示や連絡先の周知などの準備は必要ですが、開業初期から体制を作っておけば、後から追加で整えるより手間がかかりません。届出を先延ばしにするほど、算定できたはずの期間が積み上がっていきます。

よくある算定忘れの例
制度自体は複雑ではありませんが、開業後の日々の運用の中で、次のような算定忘れは実際によく起こります。
例1:受付時刻の記録があいまいで、時間外加算を算定し忘れる
時間外加算は「受付時刻」が標榜時間外であることが条件です。受付時刻の記録が正確でないと、本来算定できる回でも見送ってしまうことがあります。紙の受付簿から電子カルテへの入力を後回しにしている場合などに起こりやすいミスです。
例2:夜間・早朝等加算の「届出不要」を知らず、そもそも算定していない
夜間・早朝等加算は週30時間以上の診療時間があれば届出なしで算定できますが、この要件自体を知らないまま、対象時間帯に診療していても算定していないクリニックが一定数あります。「届出が必要なはず」と思い込み、確認を後回しにしているうちに算定機会を逃してしまうケースです。
例3:時間外対応体制加算の届出はしたが、周知が不十分
届出をしても、患者への案内(院内掲示や連絡先の周知など)が施設基準を満たしていないと、算定要件を満たしていないとみなされることがあります。届出をした時点で終わりではなく、体制を維持していることが前提になる加算だという点は見落とされがちです。
いずれも悪意や大きなミスによるものではなく、開業初期の忙しさの中で制度の細部まで確認しきれないことが原因です。診療時間の設計段階と、開業後のレセプト運用の仕組み作りの両方を押さえておけば、防げる取りこぼしでもあります。
取りこぼしを防ぐための考え方
- 診療時間を決める段階で、夜間・早朝等加算の対象時間(平日18〜22時など)を意識して標榜時間を設計する
- 受付時刻の記録を電子カルテ・レセコンで正確に残す運用をスタッフと共有しておく
- 時間外対応体制加算は、届出後も掲示・周知の状態を定期的に見直す
- レセプト提出前に、時間外等加算・夜間早朝等加算の算定漏れがないか、月次でチェックする機会を設ける
こうした運用は開業してから都度調べるより、開業準備の段階でスタッフとの共有事項に組み込んでおく方がスムーズです。診療時間の設計と算定ルールをセットで考えておくことで、開業後にあらためて制度を調べ直す手間も減らせます。
診療報酬は概ね2年ごとに改定され、この分野は見直しの対象になりやすいため、開業後も定期的な情報確認をおすすめします。制度を正しく理解したうえで診療時間を設計することが、患者にとっても経営にとっても無理のないクリニック運営につながります。
取りこぼしの積み重ねをイメージしてみる
一つひとつの加算は数十点〜数百点で、1回あたりの金額は大きく見えないかもしれません。ただし、これは1回限りの話ではなく、算定できる状態が続く限り毎回発生する点数です。
例えば、夜間・早朝等加算(50点=500円)の対象になる患者が1日あたり5人いるとして、月の診療日数を22日とすると、
- 50点 × 10円 × 5人 × 22日 = 月55,000円、年間で約66万円
という計算になります(あくまで仮定の人数による一例です)。これは特別な設備投資や追加の人員配置なしに、診療時間の設計と算定漏れの防止だけで変わってくる金額です。逆に言えば、算定漏れが起きても患者数や診療内容自体は変わらないため、経営者側が気づきにくい種類の取りこぼしでもあります。
大きな支出削減や集患施策と違い、こうした加算の算定漏れをなくすことは、日々の運用を整えるだけで対応できる比較的取り組みやすい改善ポイントですね。開業後に慌てて見直す必要がないよう、診療時間の設計段階から意識しておきましょう。
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本記事は2024年度・2026年度診療報酬改定の公開情報をもとに作成しています。時間外加算の対象時間の基準は都道府県により異なる場合があります。実際の算定にあたっては最新の厚生労働省告示および所轄の地方厚生局への確認をお願いします。
